2019年10月23日(水) 会場:パシフィコ横浜メインホール
【セッション1】 海運業界の挑戦について
モデレーター:トーマス ミラー ホールディングス 会長 ヒューゴ・ウィン・ウィリアムズ
スピーカー
・クラークソン・リサーチ社 マーティン・ストップフォード社長
・オーシャンネットワークエクスプレス ジェレミー・ニクソン最高経営責任者(CEO)
・APモラー マースク ロバート・ファン・トロイヘン・アジア太平洋地域統括上級副社長
・カーニバル・コーポレーション トム・ストラング海務担当上級副社長
・日本船主協会 内藤忠顕会長
セッション1では、まずジェレミー・ニクソンCEOや内藤忠顕会長などがそれぞれスピーチ。ニクソンCEOは今年のコンテナトレードについて、活況だった18年に比べ、米中貿易戦争の長期化もあってはスローダウンしているとの現状を説明。また来年からのSOx規制では、対応の中心でC重油から低硫黄重油(VLSFO)への切り替えが中心となるが、その値差が業界にとっての課題と述べた。
内藤会長は船協としての環境への取り組みを説明したほか、ケーススタディーとして日本郵船が世界で初めて実現した自律運航船の実証実験や船員の電子通貨「マルコペイ」の2つについて披露した。
パネルディスカッションでは、マーティン・ストップフォード社長がセッション前の基調講演で言及した、脱炭素化の手段のためのひとつとしての減速航行について、ニクソンCEOは1980-90年代と比較していまではかなり進んでいるとの現状を説明した。またコンテナ船業界では船型大型化やアライアンス集約で一度に大量の貨物を運ぶため頻度が減少しているが、流通業界では逆にアマゾンなどの登場で1回の輸送量は減って頻度が増えるなど真逆のトレンドとなっており、両業界のギャップをどう埋めるかが課題になると語った。
マースクのトロイヘン上級副社長も、脱炭素化のためには減速航行や技術革新が重要になると強調。脱炭素化には技術革新が伴った新しい船舶の導入が不可欠とした。これについてカーニバルのストラング上級副社長は、ユーザーからクルーズ船業界は業界が環境に配慮していないと認識されるとビジネスに大打撃になるため、危機感をもって取り組んでいると主張。カーニバル自身、20隻の客船を発注残であるが、うち10隻がLNG燃料炊き船などきわめて環境に配慮した取り組みをしていることを紹介する。そしてコンテナ船業界も、ユーザーからの脱炭素のプレッシャーが強まれば取り組みが進展するのではとの見方を示す。
自律運航船について内藤会長は日本郵船の実証実験を紹介し、まだ100%使えるものではないが、今後のモデルとなっていくものだと述べる。クラークソンのストップフォード社長もこれに同意しつつ、貨物の管理やバラストなど細かい項目について標準化が重要になってくるとした。
IMOが2050年までに外航海運のGHG排出量を2008年比で半減する目標を掲げていることについては、ニクソンCEOは「会社というより業界全体で協力していく必要がある。そして規制当局より先んじて、業界としてイニシアティブをとって動くことが必要なのでは」と提案する。ストップフォード社長も脱炭素化のための技術革新には、起業家の登場が不可欠と持論を展開。内藤会長も、「(脱炭素は)究極の課題だが、重要なことは最善の努力をしてGHGなどの削減を進めることになる」とした。
【セッション2】 港湾・海運業界における女性進出の推進
モデレーター:国際タンカー船主協会(INTERTANKO)常務理事 キャサリーナ・スタンゼル
スピーカー:
・女性国際海運貿易協会(WISTA)会長 デスピナ・セオドシオ
・国際海運会議所(ICS)事務局長 ガイ・プラッテン
・国土交通省関東運輸局長 吉田 晶子
・横浜川崎国際港湾株式会社(YKIP)執行役員兼営業部長 熊 桜
セッション2に先立ち、デスピナ・セオドシオ会長が基調講演を行った。「海運業界がデジタル化などを通じて大きく環境変化する中、新しく多様な考え方を取り込むことが必要不可欠だ」と指摘し、女性の進出を進めていくべきだと強調した。具体的な取り組みとして、「海運業界の魅力を高めるとともに、女性を歓迎するような船舶や労働環境を整備していく必要がある」と述べた。
パネルディスカッションでは、スタンゼル常務理事が、「男女平等を実現していくためには、伝統的にある無意識な男女の偏見を解消していく必要がある」と指摘。その上で海運業界の現状について、「女性の比率はまだ高くないが、女性の意見や考え方を活用することで、収益向上にもつながる」と話した。熊執行役員は自身の経験を踏まえ、「港湾セクターは女性が多くないが、男性が友好的に接してくれているため孤立を感じたことはない」と述べた。一方で、「社会的には男女平等になっていない」と具体的なエピソードを示しながら説明し、「将来的には男女に関わらず平等でなければならない」と強調した。吉田局長は、2018年の世界経済フォーラムによるジェンダーギャップランキングで日本が110位と低位にとどまっていることを紹介し、「特に意思決定を行うポジションに就く女性は少ない。伝統的に言われている女性の家庭での役割や、女性の能力に対する偏見が残っていると思う」と話した。他方で女性の役員登用に関しては、「意思決定において女性の意見や考え方を過度に期待するのではなく、(女性の進出により)これまで埋もれて出てこなかった意見を気づかせるという捉え方をするべきだ」と主張した。プラッテン事務局長は女性活躍推進の意義について、「例えば男性はリスクを取る傾向に強く、女性はリスク回避型だ。お互いの強みを生かすことでより良い結果をもたらすことができる」と説明。「若い女性が海運・港湾業界に入るために、魅力的な職場を作っていく必要がある」と語った。
セオドシオ会長は企業における女性活躍推進に向けて、「全ての関係者を巻き込んで、オープンマインドで議論することが必要だ。(業界で働く女性の)ロールモデルが必要なほか、男性のメンターの活躍も重要だ」と話した。これに対して吉田局長は、「行政機関ではメンターシステムが少なく、まずはメンターを作る必要がある。また日本においては女性の仕事ぶりや会社への貢献を具体的に評価するプロモーターの役割も重要だ」と語った。働き方改革に関しても、「日本では少子高齢化が進み、今後は女性が進出していかないと経済自体が成り立たない」とし、「女性が働くことも考え、男性も含めたこれまでの働き方の見直しを進めるべきだ。見直ししていく過程で、技術革新も進んでいくだろう」(吉田局長)とした。熊執行役員も、「自動化などが進み、労働環境が改善していけば女性としても働きやすくなる」と語った。
【セッション3】業界団体の観点からIMO環境規制について考える
モデレーター:国際海運会議所(ICS) 事務局長 ガイ・プラッテン氏
スピーカー:
・ボルチック国際海運協議会(BIMCO) 最高経営責任者兼事務局長 アンガス・R・フルー氏
・国際タンカー船主協会(INTERTANKO) 常務理事 キャサリーナ・スタンゼル氏
・国際客船協会(CLIA) 事務局長 トム・ボードレー氏
・国際港湾協会(IAPH) 政策戦略担当常務理事 パトリック・ウァンフォーヘン氏
国際海運のGHG対策を巡り、BIMCOのフルー氏は日本提案の船舶の出力規制案を「合理的な選択肢」と評価した上で、もう一つの手段に「港湾沖での船舶の待機時間削減」を挙げた。船舶が荷役よりもかなり早く到着し、沖待ちしている現状がGHG排出増の一因となっていることを指摘。ブレーメンハーフェン港やロッテルダム港での試験によると、沖待ち削減により船舶の燃費を20%改善できるとの試算を紹介。「これは野心的なプロジェクトであり、港湾と海運業界の連携なしには実現できず、インセンティブをどう働かせるかが鍵になる」と期待を述べた。
IAPHのウァンフォーヘン氏は、港湾のGHG削減について、次世代燃料のバンカリング設備などを巡り予算がハードルとなっていると指摘。イタリアで港湾当局が陸電設備に投資したが、ほとんど使われずに批判を受けた事例を紹介し、「港湾は、お客様がこの設備を本当に必要としているかを吟味しなくてはならない」と述べた。
INTERTANKOのスタンゼル氏はGHG削減の実効力を高めるために「透明性の高いデータのシェア」の重要性を指摘。フルー氏は「航空業界のデータシェアは海運よりも進んでいる」と述べた上で「われわれは、幅広い人々に海運の取り組みを的確に伝えなければならない。海運にもゼロエミッションに向けた重要なストーリーがたくさんある。バラスト水や水中騒音、海洋プラスチックごみなど幅広い課題に取り組んでいるが、それをうまく伝えられていない」と課題を述べた。これについて、CLIAのボードレー氏は一般市民に近いクルーズ業界として「(海運の)ショーケースとなろうとしている」と語った。
スタンゼル氏は、船員に関する問題にも言及。「船舶の高度な自動化・IT化、サイバーセキュリティー問題が浮上する中、現行のSTCW条約で十分なのか」と問題提起し、「特にサイバー問題は急速に進展しており、IMOの対策がそれに追い付くことは容易ではない」と語った。その上でルール作りの手法として、絶対的な基準を定めるだけではなく、目的(ゴール)を明確に定め、その達成方法に複数の選択肢を可能にする「ゴールベーススタンダード」の手法でスピード感を持って議論を進めることを訴えた。
一方、ボードレー氏は「海運業界の分断を懸念している」と発言。バラスト水管理やSOx削減における地域規制の増加や、欧州が推し進めるカーボンプライシングを巡り議論が分かれている状況を挙げ、「最も恐れているのは、(IMOから)離れていく国・地域が出てくること。決定に従わず、メーンストリームに反旗を翻す事態が起きかねない」と警鐘を鳴らした。
ウァンフォーヘン氏は、EUの欧州委員会について「単純なスローガンで推し進めようとしがちだが、物事はそう簡単には動かない。時間をかけて説得しなければならない」との問題点を示した。